最近のワインではあまり聞かなくなった「ブショネ」ですが、それでもごくたまに、特にヴィンテージの古いものでは、いまだに当たることがあります。
また、違和感のあるワインの香り=ブショネと思われがちですが、劣化が全てブショネというわけではなく、中には劣化と捉えられやすい健全なワインの香りもあります。
今回は、ブショネについてと、その他の劣化臭、そして劣化と間違われやすいワインの香りについて、見ていきたいと思います。
ブショネとは?
「ブショネ」とは、汚染された天然コルク栓によって劣化したワインのことで、ブショネの臭いは「コルク臭」とも言われます。
ブショネからは、カビがこもったような臭いを発し、その臭いは以下をイメージさせます。
- カビ臭
- 湿った段ボール
- 濡らしてしばらく置いた雑巾
- 古い家の物置
- 玄関の靴箱
ブショネは、天然コルク栓を使用したワインに、2~5%程度の確率で発生します。
ブショネの原因は、ワインの製造段階で発生するので、大切に保存しておいたヴィンテージの古いワインや、高級ワインにもブショネは発生することがあります。
また、コルク栓に潜む物質によって発生するブショネは、実際にワインの香りを確認することで、始めて判断できます。
開封前のワインで、ブショネかどうかを判断することはできません。
ただ、もしブショネを飲んでしまっても、体に害はないと言われています。
ブショネの原因
ブショネの原因は、コルク栓にまれに潜む「TCA(トリクロロアニソール)」という物質です。
このTCAという物質は、化学反応によって生まれ、
天然コルクのコルクガシに潜むアオカビと、木材の防腐剤で使用されるフェノール類、その殺菌に使用される塩素系化学物質反応して生成されることが、研究によって分かっています。
ブショネが問題視され始めたのは、実は1970年代ごろからで、この頃から世界的にワインの消費量が増え、合わせてコルクの需要も急激に高まっています。
その需要に応えるために当時、大規模なコルク生産業者が、原価削減のために品質の劣るコルクを扱い始めたため、そのコルクを使用したワインにブショネが多く発生したそうです。
ブショネに当たった時は?
ワインを開封してブショネを疑った時は、すぐに購入したお店に相談すれば、交換や返金対応してくれることがあります。
ただお話しした通り、ブショネかどうかの判断は、売り手側でも実際にそのワインとコルク栓を確認しないと分からないので、
コルク栓とワイン、レシートなどの購入履歴は、捨てずにきちんと残して、すぐお店に渡せるようにしておく必要があります。
また、レストランやワインバーで飲んだワインで、もしブショネを疑ったら、すぐにスタッフに相談してワインの状態を確認してもらいましょう。
(仮にブショネでなくても、スタッフがきちんと説明してくれます。)
ブショネと間違われやすい香り・匂い
ワインとは思えない違和感のある香りが感じられたら、そのすべてがブショネというわけではありません。
ブショネと違いますが、やはりワインが劣化しているものと、さらにワインの劣化ではないワインの香りもあります。
ブショネとは別の劣化臭
ワインには好ましくない、不快な臭いのことを総称して、「欠陥臭」「オフフレーバー」などと呼びます。
「欠陥臭」は、一般的にワインの欠点として考えられ、「ブショネ」もこれに入ります。
以下をイメージするような臭いがワインに感じられる場合、ワインが劣化していると考えられます。
- ボンド、セメダイン、除光液、ビネガー
- (原因)ワイン中に発生する酢酸エチルと酢酸による
- ゴム、カーネーション、救急箱、馬小屋、馬の汗
- (原因)ワイン製造中に発生するプレタノミセスという物質による
- ゆでた枝豆、ポップコーン、オートミール、ネズミ臭
- (原因)一部の乳酸菌を含むバクテリアの作用などによる
あとは、劣化の一種で「プレモックス」という熟成前酸化があり、例えが難しいのですが、急速に酸化が進んだ白ワイン、シェリーが不快になったような臭いです。
2000〜2010年ヴィンテージあたりのブルゴーニュ白ワインで、なぜかある程度決まった生産者で、たまに当たることがあります。
その原因は、粗悪なコルクの使用や、
醸造中の問題(酸化防止剤使用の抑制、ワインの酸度が低い、過剰なバトナージュ、澱の過剰な排除、樽熟成期間の不足など)などが重なったものとされています。
劣化ではないブショネに似たワインの香り
ブショネや劣化臭ではないワインの香りとして、還元香があります。
ワインの「還元」とは、酸化の逆で、ワインに酸素が不足している状態のことで、
その原因としては、ワイン醸造や熟成時の化学反応によるもの、またはブドウの窒素不足によるものです(詳しい説明は難しくなるので省略します)。
香りとしては、硫黄、温泉、マッチを擦ったような、火打石、温泉卵、玉ねぎ、ゆでた野菜、馬小屋のようなど、さまざまに表現されます。
還元香は、ワインとは思えない違和感のある香りですが、基本的にはワインの劣化とは見なされませんが、
還元香と劣化臭は、プロでも判断が難しい時があるので、不快な香りが目立つようなら、購入レシートを持ってすぐにお店に相談した方がいいでしょう。
還元香の場合は、飲む時にワインに酸素をなじませることで、その香りが和らぐことが多いので、
栓を開けた次の日に飲む、スワリング(グラスをくるくる回す)しながら飲む、デキャンタージュして飲むなど、いくつかの対策はあります。
デキャンタージュについて、詳しくは以下の記事が参考になると思います。
ワインのデキャンタとは?デキャンタージュとその効果についても紹介
ブショネを避けるさまざまな栓
先ほどお話ししたように、天然コルク栓からブショネや劣化が多数発生したことにより、業界団体が危機感を覚え、さまざまな対策が取られるようになりました。
現在までに、全体的にコルクの品質は向上し、汚染コルクの問題は確実に減少しているとされています。
またこの頃から、天然コルクの代わりとなる栓が開発され始め、今では天然コルク以外でもさまざまな栓を、私たちがワインを飲むときに見ることができるようになりました。
もし、ブショネやコルク栓由来の劣化を避けたいときは、これらの栓を使ったワインを選ぶといいと思います。
DIAM(ディアム)
「DIAM栓」は、「Diam Bouchage」というフランスのワインコルクメーカーが作る、天然コルク栓の通称です。
「DIAM栓」は天然コルク栓のひとつですが、特殊な処理がされており、ブショネが発生しないと言われています。
具体的には、DIAM栓はコルクを粒状にした後、固め直してつくられた加工コルクですが、特許を取得した技術も使うことでブショネの問題を解消したそうです。
ただ、DIAM栓は非常に高価なので、長期熟成されることの多いブルゴーニュのグランクリュなど、一部の高級ワインでしか、使われているのを見たことがありません。
スクリューキャップ
スクリューキャップは、1970年頃から使われ始め、今では世界中のワインで採用されている栓です。
スクリューキャップは、元々オーストラリアの生産者が使い始めましたが、
その理由としては、コルクの主な生産国のポルトガルから輸入するにはコストがかかったことや、
当時のコルクの供給不足により、良質なコルクがオーストラリアのようなワイン新興国にはなかなか入手できなかったためです。
その後、ニュージーランドやオーストラリアを中心に普及が進んだスクリューキャップは、今ではフランスやイタリアといった伝統的なワイン産地でも取り入れられています。
ガラス栓
ワイン瓶用のガラス製の栓で、「ヴィノロック」というものが2004年から使われるようにもなっています。
現在では、ドイツ、オーストリアのワインを中心に使われています。
単純に抜き差しするだけでワインの開け閉めができて、栓自体も純粋なガラスでできているのでリサイクル可能といったメリットもあります。
まとめ
今回は、ワインに違和感のある香り、ブショネ・劣化臭・還元香について、見ていきました。
ワインは、基本的に自然にあるものを利用しながら造られるお酒なので、さまざまな化学変化が起きる中で、不快な香りを発するものも出てきます。
ただ、丁寧に造られて保存されていたワインの場合、たとえ不快な香りがあったとしても、人体には害はないと言われていますので、
もしブショネなどに当たっても、慌てることなく冷静に対応して、おいしいワインを楽しんでいただければと思います。
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